他人に物を説明する時のコツ

どうもどうも。うっかりS.M.Sにボルテスチームがいることを前提に原稿を書きそうになって慌てて修正したあたくしが来ましたよ。
ええ、一体何を言っているのかわからないと思いますが、『スーパーロボット大戦L』のクロスオーバーで、『マクロスF』の主人公たちが属する民間軍事プロバイダS.M.Sに、時を超えてフロンティア船団に漂着したボルテスチームが入って友情をはぐくむ、という実に燃える展開がありまして。まあそれとオフィシャルの設定を一瞬だけごっちゃにしたという驚異のスパロボ*1のお話でございます。


かくのごとく、人は往々にして、自分の前提条件を基準に対話を試み、しばしば誤解をするものであります。
ことに、TRPGというジャンルにおいて、何らかの設定や情報を伝えようとして、誤解をおよぼしてしまった苦い経験をお持ちの方もいらっしゃると思います。
私見によれば、誤解を招いてしまうのには三つの理由があります*2

1.まわりくどい
 人間が一度に覚えられる情報量は、認知心理学の研究によりますと二百文字程度だということです。「ジュゲムジュゲム王国の発祥は五劫の昔にさかのぼり、カイジャリスイギョの地にスイギョウマツ、ウンライマツ、フウライマツの三大神が降臨して喰う寝るところに住むところが生まれ、その都にはやぶら小路とぶら小路というふたつの大通りがあり、その騎士団の名前はパイポパイポ、これを率いる姫将軍をパイポシューリンガンと言いまして、このシューリンガンが道ならぬ懸想をしている女神官ポンポコピーの妹であるポンポコナーの隣に住んでいる長久命の息子である長助の経営する宿屋にきみたちはやってきた」
 と言ったところで、もう最後の宿屋の話の頃には、この国の名前が何で、どんな神様がいるかなどは忘れているわけです。しゃべっているほうは覚えているからかまわないのですが、聞いているほうからすると、何かお経を聞かされた、という印象しか残りません。
 話すべきなのは聞き手が聞きたい要点であって、語り手が語りたいことではないことを肝に銘じるべきです。

2.どうでもいいところが間違っている
 人間というものは、他人の間違いをひとつ見つけると、そのすべての論が間違っているように感じて疑いを持つものです。
 たとえば、私が天下繚乱を説明するときに、「天下繚乱は時代劇をプレイするTRPGです。主人公である英傑は、ウルトラセブン同様に江戸時代に生きるひとりの英雄として、運命に導かれて妖異と戦うのです」と言ったとしましょう。
 言うまでもなく、ウルトラセブンの説明が間違っています。彼は江戸時代に生きてはいませんし、運命に導かれたというよりは自発的に地球人に肩入れしているのであり、妖異ではなくて侵略宇宙人と戦っているのです。まともなウルトラファンなら突っ込みを入れるでしょう。
 そしてその結果どうなるか。「天下繚乱は時代劇をプレイするTRPGです」という、正しいはずの部分にさえ疑いの目が向けられます。本論そのものの価値を損なうのです。ですから、他人に説明する時は、わかりやすく、かつ正確に話しましょう。
 なお、自分の知らないことなら間違ってもいい、という態度は最悪の部類です。相手は、あなたが知らない何かを心から愛しているかもしれません。ヘタをすれば最悪の侮辱です。まずは敬意をもって語りましょう。相手が怒り出したときに「そんなつもりはなかった、誤解だ」と連呼するだけではわかってもらえません。意図くらいは説明すべきです。

3.マップ兵器を撃たない
 とかく人は、個別の事例ではなく、「プラモデル」とか「ガミラス民族」とかでかいくくりをしがちです。
 たとえば、あなたが「アニメのヒーローは超絶美形で超兵器を使って事態を解決するご都合主義です。しかし●●は違います」*3と語るのはもちろんあなたの自由です。
 しかし、向こうから、その大きなくくりに反する存在がひとつ提示された瞬間、論そのものが説得力を失います。たとえば、野原しんのすけは超絶美形ではありませんし、超兵器も持っていません。ご都合主義さえほとんど出てきません。ところが彼はヒーローです。その程度のことで論理が崩壊するのはしょうもないことです。
 かの葉隠散様*4がおっしゃっておられるとおり、「カラスが黒いという命題を否定するには、白いカラスがいればよい」のであります。
 なるべく例を出す場合は具体的にやるべきです。そして、悪意を持って取り扱うべきではありません。あなたが話したかったことではなく、あなたの事実誤認そのものによって他者の怒りを買うのは、まったくバカげています。

追伸:本稿であげた悪い例は、言うまでもなく戯画化された、ありえないほど悪い例です。「こんなもん書くヤツいねえだろ!」というご指摘はまことにもっともです。

追伸2:書いた原稿を読み返していてはたと気がつきました。「4」を追加しておきます*5

4.相手がどう受け取るか考える
 当然ですが、あなたとわたしは違う存在です。わたしが「ねこ」と言った時、私はネコ科のあのモフモフしてコロコロしてぷにぷになあのすばらしいほ乳類を想像しているのですが、あなたは工事現場の手押し車を想像するかもしれません。
 かくのごとく、人は不完全な言語というインターフェースによって対話し、不完全であるからこそ対話の必要を色濃くするわけです。
 誤解されない発言というものはありませんが、相手の立場になって考えることで、誤解の可能性を減らすことはできます。
 たとえば私が全裸で首にネクタイを巻いた状態で腰をくねらせながら、「あなたは自分の生活が、発展途上国からの収奪によって支えられていることについてどう考えますか?」と言いながら、あなたの部屋に押し入ってきたとしたらどうでしょう。あなたはグローバリズムのひずみについて苦悩するのでしょうか? いいえ、おそらく警察に電話をするか、手元のバットに手を伸ばすはずです。
 このように、物には伝え方、言い方というものがあります。「丸い卵も切りようで四角、物も言い様で角が立つ」と申します。あなたの意図はどうあれ、相手になるべく誤解されないように、あなたのコミュニケーションが豊かになることを望みます。

5.相手を愚か者扱いしない
 しまった! 5つだ!*6
 当たり前ですが、そもそも相手に対する説明が余計なおせっかいである場合があります。
 たとえば、この記事がそうです。
 読者である皆さんがこの程度のことを理解していないということは冷静に考えるとありえないわけです。
 常に、相手は気づいていないのではなくあえて無視しているか、あるいはもっと別の視点を持っているのではないか? という想像力と謙虚さは備えていたいと思います。
 すみませんでした。

*1:12/08追記。これがなぜ燃えるかというと、スタジオぬえ繋がりなんですね! 超電磁シリーズとマクロスですよ! コン・バトラーとマクロス・クォーター、宮武メカの激突ですよ! キカイオー参戦はまだか! まだですね! それだけだ!

*2:もちろん、相手に対して故意に誤解を招いてケンカを売る、という手口もありますが、ここでは、悪意の存在についてはひとまず考えないことにします。悪意を計算に入れると話が長すぎます

*3:そもそも、あるものを突然欠席裁判で否定して、別の何かを持ち上げる、という論法そのものがあまり上品とは言えませんが

*4:覚悟のススメ

*5:このように、推敲せずに適当に勢いだけで原稿を書くと恥ずかしいことになるよ、という実例であります。よい子はちゃんと寝かせて、他者の査読を得てから原稿を世に問いましょう

*6:モンティ・パイソンという大昔のコメディのネタ