グラン・トリノ見たよ

グラン・トリノ [Blu-ray]

グラン・トリノ [Blu-ray]

結局劇場で見られず、ブルーレイは予約して買ったのに忙しくて積んであったグラン・トリノを見ました。
デトロイトの住宅街で、引退して人を寄せ付けずクラス自動車工の主人公が、隣に越してきたモン族(中国・ビルマ・タイ国境付近の少数民族)の少年と絆を結んだことから、だんだん心を開いていく感動巨編で、本当に面白く見ました。
んで、どうしても語りたいことがあるのでネタバレ。


いいボンクラ映画だった!
もう本当に、「おまえ相変わらずね」というイーストウッドの俺カッコEが満載。とにかくあらゆるNPCのリソースを自キャラの演出に向けるプレイングがたまりません。
さすが監督主演主題歌の作詞全部本人。途中のギャングを銃で脅すシーンの早抜きから最後の決戦(後ろの建物がサルーンそっくりで、出てくる野次馬は西部劇の野次馬そのもの)まで、いったいいつリー・ヴァン・クリーフが出てきて決闘するのかとワクワクしました。つうか引退したダーティハリーにしか見えねえよあんた。


んで、個人的には興味深かったのは彼がポーランド移民でカソリックである、ということです。
ここは何が重要かというと、彼自身も実はアメリカの少数民族なんですね。彼の友達はイタリア人とアイルランド人で、やっぱりカソリックです。
いわゆるWASPプロテスタントアングロサクソンが出てくるのは、ヒロインの彼氏としてです。彼氏気取りのモヤシは、黒人のギャングにおもねって彼らを「ブラザー」と呼びます。それを見て、イーストウッドは怒ります。「ブラザーだって? あいつらだってお前を兄弟とは思いたくないだろうよ」って。だから黒人ギャンガーたちは、最後にイーストウッドをリスペクトした態度で去っていくのです。
コミュニティを形成してアメリカ国民であることと、民族の誇りを持つことは別である、とイーストウッドは考えているのでしょう。だから彼は口ではぽんぽん差別発言をかましますが、モン族とすぐ打ち解けてしまうのは、つまり彼自身がかつて迫害された、そして今でも主流派ではない、東欧移民だからなのだと思います。強いアメリカ、贖罪するアメリカ、死んでいき、そして再生するアメリカの象徴が、東欧と東南アジアというつながらない国から来た移民たちである、というのは、個人的には大変感動したポイントでした。
いろいろな批評でイーストウッド演じるウォルト老人は「911以前の典型的なアメリカ」「銃で解決するアメリカ」「古いアメリカ」であると評されていますが、そういう視点で見るとまた別の味があるのではないでしょうか。(もちろん、その上で彼はアメリカ人です。言うまでもなく)
ちなみに、イーストウッドではありませんが、「シェーン」や「天国の門」といった西部劇の名作で題材になったジョンソン郡戦争は、既得権を主張するアングロサクソン移民と、それと対立する東欧系移民の戦いの物語です。
かつて虐げられていた人々が、今虐げられている人々のために立ち上がり、銃によらない解決策を示す。それによって魂は継承されていく。
本当によい映画でした。素晴らしい。



半分メモ書き程度の余談。
ウォルト老は第一騎兵師団で朝鮮戦争、ということなので、昭和25年から26年冬にかけて、陥落寸前だった釜山を防衛するため、北朝鮮軍の一番苛烈な攻撃の矢面に立たされて死ぬほど戦った部隊にいたことになります。なにせ、韓国に上陸して一週間経ったころには1割の兵隊が死傷していたというほど、めちゃくちゃな戦線でした。その後は38度線を越えて北朝鮮に突入し、援軍に来た中国軍相手に地獄のような戦闘を強いられています。
第一騎兵師団では、最終的には3811人が死亡しています。(25年の上陸時点での兵員数は定数の6割ほどで1万人とちょっと)。第二次大戦で同じ師団が日本軍相手に失った数が970人ですから、朝鮮戦争がどれだけ恐ろしい戦争だったかわかります。その上でピカピカに磨いたM1ガーランドやコルトM1911を持っているのですから、そこにはさまざまな思いが込められているのでしょう(両方とも、当時の米軍の制式採用銃です)。
ちなみに、当然ですが東京や千歳を後方基地としておりましたので、ウォルト老も日本に滞在していたことがあります。