麻雀放浪記

「朝飯おくれ、二つだ」
健の一言で、銀シャリと、アツい味噌汁、むろ鯵の干物、新香などが一揃えずつ運ばれた。私にはそのどれもが夢の中でしか口にできないようなものばかりだった……


麻雀放浪記(一) 青春編 (角川文庫)
これですよ。
まさかこの偉大な悪漢小説*1を知らない人もいまいと思うのですが、戦後の焼け跡に集まった博打打ちたちが、どうしようもない自分の業やら何やら、本質的には賭博そのものが持つ魔力に引きずり込まれて勝ったり負けたり破滅したりする話なのですが、これがもう実に格好よい。
ひさびさに書棚から引きずり出して、風邪ひきの枕元で読んでいたのですが、気が付くと一巻を三度ほど読み返しておりました。*2

スラム、レッドエリア、貧民街、闇市……TRPGに置いて表現されるそこは野獣の巣であり、もちろんこの小説においてもさらにとんでもないところなのですが、しかし、しかし。
この小説に登場する坊や哲やドサ健、上州虎、チン六、出目徳などと呼ばわれるばくち打ちたちの魅力は尋常なものではなく。

麻雀のシーンではないのですが、冒頭、上州虎なる隻腕のヤクザ者が上野のチンチロ部落でチンチロリンをやるシーン。ここにTRPGゲーマー的にはまさにぐっときます。

彼はズボンの中から汗で濡れた何枚かの札を掴み出した。
「これがとられたら、俺ァ餓え死だ。面白えね! 博打はこれだから面白え。死ぬも生きるもサイの目ひとつ、どうせなら、こんなふうに簡単に死にてえものさ」

*1:amazon:麻雀放浪記

*2:二巻以降は、さて部屋のどこにあるのやら?