小太刀右京のマスタリング講座

論考を書くとRPGが楽しくなる、と教わったのでさっそく拙いながらも書いてみることにする。もちろんこの分野にはD&D3eのダンジョン・マスターズ・ガイド、V:tMのStoryteller Handbook(未訳)、Shadowrunのマスタリングガイド、GURPSのマスタリングガイド、鈴吹太郎ゲームデザインにおけるストラテジー(ファンタジー魂収録)、ストレイライトやアリアンロッド上級ルール、ダブルイメージのマスタリングガイドなど枚挙にいとまがない先駆作がある。*1


とはいえ、戦闘機と攻撃機の果たす役割が違うように、「TRPG」という広いカテゴリにおいて汎用的なものはさほど多くはない。そんな中、第一回として取り上げるのは「語り口」である。


語り口ほどマスタリングで重要なものは少ない。人間は感情の動物であり、意志の疎通が完全に成されることはない。思考は言語にした段階でそもそも誤謬を覚え、口に出した言語の意味はさらに相手との間で完全に同一ではないからである。


たとえば、私が「巨神兵だね」と言った時、あなたが思い浮かべるのはナウシカのそれであろう。だが、違う。ここでいう「巨神兵」というのは我がサークルのスラングで「まずい食い物」である。なぜか。巨神兵といえば「早すぎたんだ、腐ってやがる」からだ。*2よって、私が「巨神兵だね」と言った場合、「まずいねぇこのコーラ」と言っているのだ。
わかるわけがない、とあなたは思っただろう。その通りである。もちろんこれは極端な例だ。だが、このような誤謬は常にある。世の中には味噌の入った雑煮や底の見えないうどん、糸を引いた納豆と称する大豆を喰う人々もいるのである。驚いてはならない。


このような誤謬と誤認こそがコミュニケーションの本質である、と断じてもよい。故に我々は、常に想像力と知性をもって、相手の発言意図を推し量らなければならない。目の前の東京人が「そこの納豆」と言ったとして、それは捨てるためではなくごはんにかけるためかもしれないのだから。
故に、「論理的に正しい内容を喋っていればどんな態度でも相手は聞いてくれて理解してくれる」という独善的態度は慎むべきである。数式の世界ではそのとおりだが、言葉が理解されない、文化が違う、誤解される、単によそ見をしていた、相手がエイリアンだった場合、論理が正しくても言葉は誤解され、ねじ曲げられ、歪曲され、フェイスハガーにエイリアンの卵を産み付けられる。最後は特に回避しなければならない。*3


これらの誤謬の確率を減らすにはどうすればよいか。
まず、エイリアンのいそうな惑星に行かないことである。探検隊に志願したりするのもよくない。
次に、相手に好意を持たせることである。人間ならば誰しも、好きな人間の言葉のほうが、そうでない人間より受け入れやすいものだ。好意を持たせるにはどうすればよいか。鼻をほじりながら明後日の方向を見て、少年チャンピオンをめくりながら小声でぼそぼそ喋ることだろうか。
多くの場合そうではない。相手の目を見て、発声を正しくし、平易な言葉で、相手と同じことばを使い、礼儀正しく語ることが大切である。「私のことを思ってくれる」そういう人の言葉を人は聞き入れる。そうして始めて、対話の素地が作られる。理論が登場するのはこれからである。どれほど理論が正しくても、語り口が正しくなければ、聞き入れてはもらえない。


また、素地が形成された後にも、語り口は有効である。
PCの活躍を褒める時に、「5点のダメージ」とそっけなく言われるよりは、「キミの斬撃はオーガーの首を跳ね飛ばした」と言われるほうが嬉しいし、それにわざとらしくない熱弁と、ちょっとした身ぶりが入っているほうがはるかに盛り上がる、というのは理解してもらえるだろう。
もちろん、ショウアップを好まないプレイグループも存在する。だが、その場合でも、プレイヤーの目を見て、はっきりした声で、「5点のダメージだよ」というほうが、やはり好感は持たれやすいものだ。


次回は、機会があればロールプレイ、つまりなりきりとしての演技がどれほど豊饒で素晴らしいものか語ってみたい。また、プレデターに対するマスタリングについても考察を行う予定である。

*1:クトゥルフの呼び声TORG、クロちゃんのRPG千夜一夜、山北篤の諸著作、押井守の諸著作、富野由悠季の諸著作、ドラえもんうしおととら、カレーライス、ハンバーグ、ラーメンなども忘れてはならない

*2:スーパーや飲食店で店員にバレずに会話するのに使う。「この刺身定食どう?」「こないだ喰ったけど巨神兵だったよ」

*3:数式の場合でも成立しない場合があるらしいが、門外漢なのでコメントは省く