天秤棒について

2ちゃんねるのアルファヲチスレで「天秤棒*1のない文化なんぞあるまい」と書いてあるのを見てちょっと興味を持ち、いくつか調べてみる。
天秤棒はその張力と長さを両立させるため、アオダモトネリコ*2など、亜寒帯〜亜熱帯に自生する広葉樹を素材として要し、その長さのため山岳地や狭隘な谷間では発達しなかった。天秤に適した木材のないところでもだいたい同様であるらしい。
筆者は日本、朝鮮、中国、ベトナム、タイ、カンボジアミャンマーに天秤棒が存在することを発見したが、欧州、インド、ロシヤ、アフリカ、南米あたりにおける天秤棒使用については発見できなかった*3


無論、天秤の存在を見て「天秤に類する発想は人類普遍のものである」と主張することも可能であろうが、筆者の知る範囲では中世欧州、たとえばポーランドガリツィアのような文明国家で天秤棒が使われていたという記録を寡聞にして知らないし、欧米人の作るTRPGのそれにも天秤棒は今のところ見つけられていない。
いずれにせよ、「天秤棒のない文化があるかないか」という命題についての解答には正直なところなっていないのだが、思いのほか面白いリサーチとなったのでここに書き残す。


追記:なお、天秤棒に適した棒がないことは、イコールで長い棒がないことにはつながらない。注意されたし。ポーランドはもちろん、おそるべきことにフランク王国イングランド王国の人間ですら、槍くらいはもっていたのである。

さらに追記:当たり前だが、木材資源が希少な文化圏、たとえば北極圏のイヌイットサハラ砂漠遊牧民などは棒を所持していない、あるいはそれは交易で手に入れる価値ある物品である場合がある。木材資源が豊富な我々には理解しにくいことではあるが、そうした文化圏において木材は貨幣や貴金属に相当する場合がある。

もっと追記:芝村さんがSDの場合、「クォータースタッフありますか?」と聞いたほうがたぶん話は早いと思いますよ。

ものすごい追記:なお、この日記を書いたあと専門家に問い合わせたところ、中近東(おそらくはアッシリア)を中心にユーラシア及びアフリカに広まった「杖の文化」は、牧夫や商人、旅人や農夫にとってもっとも手軽な日常的道具として「杖(クォータースタッフ)」が普及しており、とくに「天秤」と語ることがなくても、それらの杖が上古から運搬に用いられていたことが判明。南米及び北米、オーストラリアについてもほぼ同じとのこと。ただし、そうした樹木が貴重な文化圏、ヴァイキングなどでは確かに、杖は貴重なものであったことが明らかになっているという。以上のことから「ターニの帰還」世界における木材の希少性は我々の知るほとんどの文化圏をしのいでいるようだ。

*1:ここで論じている天秤棒は、一人の人間が肩にかつぎ、両端でバランスを取る天秤棒である。二人の人間の間に棒をさしわたし、中央に荷物を吊すタイプについては今回リサーチしていない

*2:張力があってよくしなることが秘訣である

*3:尤も、これは資料収集の不完全さを物語っているだけであるかもしれない