デッドライジング

※以下、ホラーゲームについての残虐なヨタ話が続きますので注意。


というわけで色々と情報が公開されて期待がますます高まるゾンビゲー、デッドライジングです。
前作をしのぐ巨大な舞台、前作をしのぐメガバイオレンスでゾンビたちを蹂躙できるかと思うと、今から手の震えがとまりません(うれしくて)。
ゲーム、引いては娯楽というものに対する考え方は人それぞれであろう、と思いますが、押井守も言っている通り、暴力と略奪を求める人間の性はこれを大いに肯定すべし。所詮ゲームは徳を求める者の所行にあらず、というやつでして、社会生活の中で鬱屈したストレスを、ゲームの中でたたきつけ、奪い、かっぱらい、思うさま発散することは大事なことだと思います*1
で、まあゾンビなりオーク鬼*2なりというのは、ゲームの中で思うさまやっつけてもいい記号なわけであります。なにしろもうどうしようもない。対話も成立しないし相手はこっちを食うつもりだし。話してわかるやつなら話せばいいのですが、談判破裂して暴力の出る幕、どころか談判がそもそもないのだから、これは芝刈り機やチェーンソーや焼けたフライパンに物を言わせるしかない*3。言わせいでか。

http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/20090603_212235.html

で、そんなことを考えていたところで登場したのがどうも今回のヒロインらしい人。

登場キャラクターのCGでは、“TiR”の出場者で本作の主人公と思われる「チャック・グリーン」と、ゾンビの人権を訴え活動する女性「ステイシー・フォーサイス」の2人の存在を確認できる。

ゾンビの人権と来ました。
いやこれはもっともな話です。『デッドライジング』のゾンビはある種の疫病の罹患者なんだから、病気にかかって自分の意識を失い、よろばい歩いて他人に襲いかかったとしても、そりゃ病気が悪いんじゃなくて当人が悪い当人が悪いんじゃなくて病気が悪い*4、というのがまっとうな先進国の考え方であります。ヴラド・ツェペシュじゃないんだから、病人を家に押し込めて焼いてたら野蛮人です。実際そこんとこの疑問は前作やってる時にボクも考えたんですが、自分が食われそうである、という現実の前にはマッハでどっかに行きまして、ふたたびマネキンの上半身でゾンビを殴る作業に戻ったわけです。あたりまえですが。
このへんの『意に染まぬ食人者と社会』ってネタはアメリカのゲームデザイナーが好きなテーマらしく、たとえば『シャドウラン』だとグールという知的種族が人間をモリモリ食べるんですが、これもある種のウィルスに罹患して人間食うしかなくなっちゃった「人間」なので、人権が認められております。もちろん人権つうのは何やってもいい権利、ではないので、生きてる人間襲ったらやっぱり犯罪者なんですが。医療用に培養された肉だといいんだったかしら? ちょっとここまで書いておいてあれですが、乗ってるサプリメントを失念しました。詳しい人に聞いてやってください。まあ、人権があるつうのは当たり前の話でして、考えてみて下さい、あなたの家族が明日から人間食べないと死ぬ、って言われたからと言って、突然家に火をつけられたり家財を略奪されたり拷問されたり実験材料にされたらたまったもんじゃありません*5。おまえたちこそがあくまだー。おれグールになっちゃったよー。すみません、別の電波が混入しました。
同じネタは『ヴァンパイア・ザ・マスカレード』の未訳ソースブック“Vampire Storytellers Handbook”に登場するNagarajaというBloodline*6でもありまして、こっちは吸血鬼だ、つってんのに、肉を食うことでしか吸血できない。人間襲うのは他の吸血鬼とまるで変わらないんですが、結果がはるかにエグいことになるので吸血鬼たちからも忌み嫌われている、という面白いヴァンパイアです。小指から流れる一滴の血で喉を潤す、ってわけにはいきませんからね。吸血鬼からも怪物扱いされ、かつ心は人間のまま、というのが大変好きなネタで、カジュアルだとちょくちょく遊んでおりました。
たぶんこのイメージの原点はラブクラフトの書いた食屍鬼、グールなんだと思うんですが、ともあれ、「人間食ってるやつにも事情があるのよ」ってネタは、落としどころ*7を間違えると単にアンチカタルシスなしょうもないネタになりかねません。ので、TRPGのネタとしてはここまで書いておいてなんですがあまりおすすめできません。だって考えてください。今目の前にあなたなりあなたの家族なりをモリモリ食おうとしているゾンビがいて、そのゾンビを必死こいて撲殺した後に、突然逮捕状が来ても困る。少なくともTRPGだと大分うんざりします。*8交渉の余地もなくこちらにただ襲ってくる暴漢に対して手出しできない、なんてしょうもない状況にゲームの中でまで置かれたくない*9
で、デッドライジングにおけるゾンビの人権。
あきらかにまるっと無視してきた気がする人権。
撲殺し焼殺し斬殺し礫殺しあまつさえその後で写真取ったりしたゾンビの人権。
後冷静に考えるとゾンビじゃなかったよーな気もするいろんなサイコのみなさん。
果たしてこのオチは「カルネアデスの板みたいなもんでしょうがなかったよね」なのか、「ゾンビにも人権があるのよ! と訴えていた頭でっかちの姉ちゃんがやっぱり食われてそいつもゾンビに」なのか、「考えが変わったわ、あたしにも芝刈り機を貸して」なのか、「ゾンビの権利を保護していたのはあたしたちアンブレラの利益になるからなの」なのか、それともまったく予想もつかないオチを見せてくれるのか。
今から楽しみに待ちたいと思います。

※追記:あたりまえだけど、食人ネタはものごっつう人を選びます。コンベンションでは10人が10人単に不快になると思ったほうがよろしい。カジュアルでもよくよく人を選びます。そして一番大事なことですが、そういう悪趣味なプレイをやってるからといって、あなたが立派なゲーマーなわけでも、大人のゲーマーなわけでもありません。よろしいか。

*1:TRPGボードゲームで自分のストレスだけ発散していてもみっともないので、他の人に配慮しつつ……というのは今さらこのブログ読んでる人に言うようなこっちゃないよね

*2:ゲーム世界によっちゃ人類のよき隣人ですが、ここではトールキンが書いてるような人を食う悪鬼羅刹

*3:もちろん、そのような悪鬼羅刹を偉大な宗教的信念と奇跡によって改心させる『Buddha:the Saint Onisan』のようなゲームも面白かろうとは思いますが、そのゲームの面白さがデッドライジングと相互否定するものだとは思いません

*4:ひどい誤植だ!

*5:基本的人権がなくなる、というのはたとえば犯罪者として立件されてその一部が制限される、というのとはまったく違います。あと人権があるからってあらゆる非合法行為が正当化されるわけでもありませんやね。すみません、こんなことはデッドライジングやるような成人なら理解してますわな

*6:氏族より規模の小さい血族の一派

*7:たとえばさっきのNagarajaだと、世界観的に人間に戻る奇跡のよーなものが設定してあるので、それを探すことがキャンペーンの目的にしやすい

*8:ああ、そこで警官がゾンビ事件を隠蔽するために難癖つけて自分を逮捕に来たのでそれも殴り倒して遁走する展開は大好物ですがそれが「落としどころ」ですよね

*9:まあ、うちのサークルは全員石川賢に染まってるんで、「法律とか関係ねー! わしゃあ極道じゃー!」とかゆってそれでもブッ殺すわけですが。つうか、「キミ、ゾンビにも人権があるんだ。それは過剰防衛だよ」とか言うキャラはそのカタルシスを引き出すために出てきます。でもこんなプレイをコンベンションとかで期待してはいけんよ!