賢そうな文章の書き方

読者の方から、「小太刀さんのように文学や映画を引用した文章が書きたい」というお便りをいただきました。さっそく、どうすれば賢そうに見えるかを紹介します*1

まず、グーグルを用意します。それから、レンタルビデオ屋でダメそうな映画を借りてきます。なるべくつまらなさそうな映画がよいです。『地獄の幻想文学Z・悪魔の手鞠歌』*2とかがよいのではないでしょうか。

そのダメ映画を見ます。別に真面目に見なくてよいです。MMOやりながらとか、ガンプラを組みながらとか、他の映画を見ながらとかがおすすめです。レンタルビデオの裏のストーリー紹介だけ見る、という手もあります*3

さて、見終わりましたか? ではその感想を紙に書き出してください。「女優がエロかった」「怪物がチャチかった」「いくらなんでも脚本が支離滅裂だった」「幻想的だと思ったらバカ映画だった」など、いろいろあると思います。全部かもしれません。全部だといいですね。

では次に、あなたの知っている国名と、「文学」か「映画」をグーグルのキーワードに入れて検索をかけてください。「アルゼンチン 文学」とか「フランス 映画」とかです。聞いたこともない作家や映画監督の名前、あるいはタイトルが出てきましたね?

その固有名詞を、先ほどのバカ映画と入れ替えてください。たとえばこうです。「フンデルビッチ監督の映画は猥褻である」「オストアンデル氏の文章は幻想的だと思ったらあまりにも愚かしかった」。理由は説明しなくて構いません。言い切りです。もし、「どうして猥褻なの?」と聞かれたら、「それがわからないということは、あなたはフンデルビッチ監督の映画の見方をわかっていませんね」というように答えてください。大丈夫です。

このようにすれば、あなたもとりあえず引用を続けることができます。固有名詞を複数羅列したい場合は、とりあえず関係のある単語をwikipediaでジャンプして調べる手があります。たとえばオストアンデル氏の文章はヘーデルホッヘ卿の影響を受けているそうです――。そう書きましょう。たくさん固有名詞を並べておけば、検証はどんどん困難になります。「オストアンデル氏が幻想的ではないのはヘーデルホッヘ卿の影響だ。ヘーデルホッヘ卿はヒネルトジャー文学運動へのアンチテーゼとしてこのような作風を確立した。その結果として支離滅裂である」

いかがでしょうか? これであなたも文学者を気取ったスノッブとして、友人一同の白眼視を浴びることができます。是非おためしを。責任は持ちません。

追記:あ、あと、映画賞や文学賞を取った作品を垂れ流す、という手もあります。聞いたこともないやつがいいですね。周りの人間が知ってる率が下がりますから、ボロが出にくくなります。「難解」という評価を得ているやつもおすすめです。解釈が違った場合でも問題になりにくいですから。間違っても映画ならスピルバーグ、文学なら山田風太郎、なんて言っちゃいけませんよ。わかりやすくて面白くて売れているもの*4、なんてのを引用するのはスノッブとして恥ずべきことです。

追記その2:あと、「●●は××じゃないんですか?」とちゃんと読んでる人に突っ込まれたら、「いいえ、あなたはオストアンデルを理解していません。スワルトバートルの『アシハポーン』を読むと私の解釈の意義が理解できるはずです」というように答えてください。別にあなたが『アシハポーン』を読んでいる必要はありません。難解な本なら何でもいいのです。もし、相手が『アシハポーン』も読んでいたら、「なるほど、『マワルトカートル』を読んでいないからそんな解釈なのですね」とひたすら書名を並べて下さい。相手がその内根負けします。こういうときのために、脳内に難しい文学作品と映画作品のタイトルだけをリストアップしておくのがおすすめですよ。

追記その3*5:他に、適当な映画監督や作家の名前でググって、適当なレビューを読み、その意見と正反対のことを言う、という手もあります。
たとえば、「ジュゲムジュゲム監督は人間愛に満ちている、という見方をする人がいるが、まったく逆である。彼は人間になどなんら興味を持っていないのだ」という具合。
これも言い切りで構いません。これだけであなたは独自の視座を持ち鋭く論評を行なう人間であるかのように見せかけることができます*6
根拠を説明するように言われたら、追記その2を参照。

まあそれはそれとして、真面目なやつを。

自分の場合ですが、好きな作家*7が「おもしろい」と言っていた本や映画を読んだり見たりすることにしています。自分が好きな人が好きなものは、だいたいにおいて趣味が似通っていて面白いものです。同じ理論に従うと、友達が見て面白いよと言っているものに片っ端からチェックをいれると、これまた幅が広がってよいと思います。

TRPGなんかだと参考資料が載ってるので、それを片っ端から読める範囲で読む、という手もありますね。

あと、たとえばその作者の名前で検索をかけてみて、関連のある作家を読む、という手もあります。たとえばコナン・ドイル*8が面白かったなら、レックス・スタウト*9アガサ・クリスティ*10、D・ジェイムズ*11を読んでみる、というやり方です。

権威のあるもの*12を読みたいなら、文学賞で検索したり、文学史の教科書を取り出して、目についた名前から読んでみる、という手もあります。

荒行としては、図書館に行って「あ」から片っ端から読むという手もありますが、これは速読に自信がない場合、おすすめは出来かねます。

知識は人格を保証してくれることはありません*13。ですが、人格を豊かにする手助けにはなろうかと思います。

必要なのはきっかけです。それから、つまらないものはつまらない、興味がないものは興味がない、と切り捨てて、自分にとって面白い物に触れることだと思います。


前置きが長くなりましたが、歴史的名作であるところの、『マクロスF』を今後ともよろしくおねがいいたします。是非過去のマクロスシリーズにも触れてやってください。

*1:賢くなる方法をもし私に聞きたいのなら――そうですね、私以外の人に聞くことを覚えるとよいでしょう。ひとつ賢くなったでしょう?

*2:もし実在したら、悪気はありません。小太刀右京は俗悪映画を愛しています

*3:多くの場合、映画本編より面白いことがあります!

*4:もちろん、難解で少部数しか出回っていないものにも、大いに価値があります。ですが、面白くて売れていてみんなが知っているものはくだらない、と考えているのなら、あなたは何かを取り違えています

*5:いつまで続くんだ

*6:筆者の経験では、2秒ほどの間

*7:たとえば押井守筒井康隆

*8:ホームズの作者

*9:ネロの作者

*10:エルキュールの作者

*11:コーデリアの作者

*12:もちろん、現代でも名前の残っている権威のある作品は、たいてい読む価値があります

*13:私を見ればわかると思います――二重の意味で。知識の欠如についても人格の欠如についても