その4・飛翔! マッハ2vs時速200マイル!

それは、とある東欧の小国の内戦での出来事。
多国籍企業の援助を受けて無理矢理独立した“共和国”の空軍に対抗すべく、“公国”は傭兵部隊“エリア88”を結成。
世界中から集められた腕っこきの傭兵部隊は、脆弱な“公国”の空軍に代わって、紺碧の大空へと舞い上がったのである!


というわけで、大昔に遊んでおりましたGURPSの空戦キャンペーンのお話。GURPSの醍醐味はこの手の派手でヒロイックな展開にございます。
まあ要するにエースコンバットをやろう、という企画でして。
これは、そんなある日の物語。


あたくしのところに先輩*1がやってまいりました。
「小太刀、データ化してほしい機体があるんだが」
「はいはい。でも、メジャーどころはだいたいデータ化してありますよ」
「実際に存在しないからさすがにこれはないやろ」
「あ、架空機ですか。エースコンバットノスフェラトゥとかあのへんで?」
「いや、そんなハイカラなんじゃない」


「こ、これは!」
手渡された資料を見て愕然といたしました。
そうです、サヴォイアS.21非公然戦闘飛行艇。ポルコ・ロッソの愛機として、もしかしたら二式大艇の次くらいには日本で有名な飛行艇ではないでしょうか。


「しかしこれ、第二次大戦前の飛行機ですよ。ジェット機と戦えるんですか?」
「まかせとけ。あと、機関銃は通常弾で頼む」
焼夷弾じゃないと当たっても炸裂しませんから、まともにダメージでませんよ? ミサイルとか積みます?」
「坊主、オレたちゃ戦争やってるわけじゃねえんだ」
「ゲエエーッ、PCもポルコ本人!?」


そうです。アドリア海の空賊どもを震え上がらせたあの紅の豚その人です。まあ、ルール上出来るならとくに断わらない、というのがうちのサークルの流儀です。すでに加納が『西武新宿戦線異状なし』の丸輪零(本人)とかやってましたし。
それにしても、毎秒600メートル、1空戦ターンが10秒ですから6000メートルは軽々と移動するマッハ2クラスの戦闘機が群舞する空で、秒速せいぜい80メートルどまりのサヴォイアS.21! さすがにデータを作ったあたくしも手が震えました。いけるのかこれ。


そして始まったセッションは、アルプスの谷間に作られた超巨大砲を、谷間を縫って出撃し、これを攻撃して木っ端微塵にする、というベタベタなものでした。だいたい『エースコンバット』だと8面くらいに用意してありそうなあれです。
F-14やF-20が颯爽と突っ込んでいく中、一隻のボロ船が谷川を遡上して参ります。上空では打ち上げられた対空砲とミサイルが花火を上げておりますが、そんなものは知ったことではありません。
ええ、ポルコ・ロッソの偽装艇です。
船が真っ二つに割れるや否や、水上を滑っていく木製の紅い飛行艇。離水するや否や、水面ギリギリを低速で走り、一陣の矢のごとく敵の本拠地を狙うという構え。なにせ木のかたまりでございますからレーダーにもとより映りにくく、高度が低いのでそもそも地上物としか判定されません。機体の性能が低い分パイロットの腕はよくなっておりますので、立木も教会もかき分けて、あっというまに敵の基地に飛び込みます。


驚いたのは敵兵です。GMは当然ルールに従ってレーダーの判定を転がしているだけなので、ダイスが「気付かないよ」と言ったら気付かないものであり、ダイスが「不意打ちだね」といえばそうか、と受け入れるしかありません。ポルコの機銃がレーダーサイトに大穴を開けていきます。
とはいえ、敵もやられっぱなしではありません。Su-27部隊が緊急発進いたしまして、これを迎え撃ちます。
ところがです。
翼面荷重が近代ジェットに比べてきわめて低く、その上格闘戦重視のサヴォイア*2です。するりするりとSu-27の突っ込みを交わし、逆に相手の運動エネルギーを利して背後にふわり、と回り込みます。
すわ、撃墜か、と思いましたが、ポルコの機銃は火を噴きません。
「攻撃しないんですか?」
「したところで穴開くだけだ。ジェットとまともにドンパチやるほど酔狂じゃねえよ」
確かにそれはそうです。そして数ターン、敵は必死にポルコを追い、豚はひたすら余裕しゃくしゃくで逃げ続けます。


そして迎えたあるターン。
「……しまった、ファンブルだ」
そうです。位置取りの判定にファンブルすることは、空戦ではすなわち致命的な事故を意味します。アルプスの山肌にぶつかって火を噴くSu-27
これが狡猾な賞金稼ぎの狙いであったのです。
味方を突入させる時間を稼ぎ、自分はひたすら上げた技能とダイス振り直し系の能力でファンブルを回避。操縦技術だけで敵を無力化しようという戦術の妙技。


「カッコいいとは、こういうことさ」
そうつぶやいたポルコを見ながら、我々はTRPGの表現幅というものの広さを思い知ったといいます。

*1:Aの魔法陣』のエースのひとり、悪童同盟氏。筆者のNOVAと2020と人生の師匠

*2:このへんのデータがさくっとゲームデータに落とせるのがGURPSのすごいところです