その5・歴史の闇に消える

ええ、エピックプレイ、というものがございます。
ごぞんじ『ブレイド・オブ・アルカナ』の3rdエディションから入ったルールで、各シナリオごとにPCという伝説上の人物の一側面を切り取り、経験点と大まかなパーソナリティさえ同じなら、細部の設定や能力が違ってもいいんじゃね? という大変アグレッシブなルールでございます。


重信康、という男がおります。『虹の彼方から』のジャンガリアン・キッドのプレイヤーですね。最近ですと、『エルスゴーラ』のデータをほとんど書き上げた傑物です。
この男と発売直後にブレカナ3rdを遊んだときのお話。


GM:では、重信マンのオープニングだ。酒場のシーンだね。
重信:するとモノローグが入ります。「“長槍の”アダルベルトと呼ばれる騎士がハイデルランド史に姿をあらわすのは1060年代の後半である。この男は大変背が高く、また長大な槍を持っていたことから長槍の綽名を持っていた。この男がある街の酒場の戸を大きな手で叩いたのは……」
GM:あ、すまん(笑)。格好いい解説を入れてくれたところありがたいんだが、もう酒場に入ってるのが前提のシーンなんだ。
重信:(ちっとも慌てず)「しかし、酒場の戸を叩いた、という伝説については筆者は疑義を提示したい。筆者が取材の折、あるタクシー運転手に聞いたところによれば、彼はすでに物語の始まりから酒場にいたのことである」

そう、メタプレイである。
別に「このGMの解説文が長いからこのドアは重要だろう」とかそういうコスいメタプレイではない。なんだか分からない謎の歴史家の視点が混入する、という意味でのメタプレイである*1
以下、万事がこの調子であった。

GM:じゃあ、∴死神の手∴を乗せるよ。〈斬〉83ダメージ。グレートソードでアダルベルトはまっぷたつだ。
重信:それは死ぬな。だめだ。
他のプレイヤー:しょうがない、∴再生∴だ。ほれ、復活。
重信:(あわてず)「……この時、アダルベルトは殺戮者の剣にかかり両断され、居合わせた聖者の祈りによって復活した、と教会の史料は伝えている。しかし筆者は疑義を提示したい。思うに、当地は雷雨の多い土地である。雷を背に転倒したアダルベルトが立ち上がった、という故事が、教会によってねじ曲げられ、奇跡扱いされたのではあるまいか」(プレイヤーに)マッジ感謝。


だが、真の驚きは一本目のシナリオが終わり、二本目に入った時に訪れた。


GM:では“長槍の”アダルベルトのオープニング。
重信:長槍? 誰が?
GM:いや、お前のPCの二つ名。
重信:(あわてず)「……アダルベルト卿の綽名が“長槍”だというのは実のところまったくの俗説である。実際にはエクスター王国の騎士ハイマンとの習合によるもので、アダルベルト説話とは関係がない。そのような俗説を唱える自称歴史作家の横行には怒りを禁じ得ないのが筆者の立場である。彼の武器が剣であったことは、民俗学的見地から見て疑いないであろう」というわけで、アダルベルト卿の武器は剣です。後、身長は160センチ半ばの中肉中背です。
GM:……なんで剣に?
重信:いや、よく見たらデータ的にはこっちのほうが有利なんですよ。で、歴史を改竄しました。
GM:そーかー。おまえ、あたまいいなー。


かのごとく、歴史は支配者の都合で書き換えられる、というありがたい一幕。
どっとはらい

*1:しばしばメタ演劇ごっこと単なる野暮なプレイを混同する人がいる。混同がよくない、という話ではなく、どちらかというとコンベンションなどで過剰なメタプレイはやらないほうがいい。わかってるんだ。いや、本当