その6・メビウスの輪から抜け出せなくて

それは、確か98年の暮れ方だったように思います*1
あの頃の自分の恥多き生活については脇にどけておくとして、そのころあたくしの身内では、あたくしが作ったガンダムRPGが大変に流行っておりました。
このRPGの開発経験は後にたいへん様々なことに役に立ったのですがそれはともかくといたしまして。
本日はそのRPGを遊んでいた時のおはなし。


その時遊んでいたキャンペーンは、『機動戦士ガンダムZZ』の初期企画書*2を元にしたものでした。
ご存じの方もいらっしゃると思いますが、地球連邦の官僚をヌッ殺して宇宙移民の障害をなくしたシャア・アズナブルハマーンの元に帰還し、全ジオン勢力を束ねてエゥーゴにぶつけ、最後の最後で自分もろともハマーンとザビ家を倒させることで戦乱を終わらせようとする、という話です*3
で、「そんな独善で地球を救われてたまるか!」とばかりにハマーンとシャアを殴り倒すのがジュドー・アーシタだったわけですが、まあTRPGなのでジュドーについては脇役といたしまして、これがPCたちである、というお話にいたしました。ついでにガンダムセンチネルもモリモリ混ぜよう、MSVも混ぜよう、という勢い。


で、キャンペーンはつつがなく進みまして。
加納くんの演じるPC1*4が新型ガンダムパイロットで、PC2の幼なじみのツンデレ*5や他のPCと一緒に、ティターンズ残党やらネオ・ジオンやら昔の上官やらコロニーで知り合った美人のねーちゃんやら暗い過去のあるオヤジやらと戦いながら珍道中を続けていたわけであります。


いよいよPC1がですね、敵味方に知られるエースになりまして、ついに戦局に関わるようになってまいりました。ええと確か、主人公のガンダムに特殊なサイコミュが使われていて、それがハマーンの開発してるサイコミュ兵器に対するアンチシステムになる。で、それを流したのがシャアである、とかそんな話だった。はず。
まあこのへんは黒歴史ノートみたいなもんでどうでもよろしい。
で、PC1が戦場でいよいよハマーン・カーンの乗るキュベレイにでくわしたわけです。
GM、言いました。



「少年、私と共に来い。そのニュータイプの力を、正しく引き出す術を教えてやろう」


まあ、挨拶みたいなもんです。
ランバ・ラルはグフに乗ったら「ザクとは違うのだよ」と言わねばなりませんし、御大将がターンXに乗ったらば「我が世の春が来た」とのたまわねばなりません。ハマーン閣下が年若いニュータイプを見たらとりあえずこれは言わないといけません。それにしてもあの人ァ、いくらシャアが好きでも一番よくないとこをマネしなくてもよさそうな気がします。
閑話休題
そしてPC1は言いました。


「行きます!」


いやちょっと待て、と色めき立つPL一同。
あんたこれまで積み重ねてきたキャンペーンはなんだったんだ、と。
しかし悪びれず加納くんはいいました。「いやだってハマーン閣下のお誘いだよ? ノイエ・ジールとかもらえるよ? 断わる理由があるか!?」
……確かにまあ架空の人生、架空の選択を楽しめるのがTRPGのいいところです。彼を責めることはできません。同じ選択を強いられたら、私でも同じことを言うでしょう*6


かくして。
ハマーン・カーン率いるアクシズとPC1の乗るノイエ・ジールIIは地球降下を開始。
量産型サイコガンダム*7に乗ったPC2がこれを迎え撃つという阿鼻叫喚の戦場で無理矢理にサイコフレームが発動し、キャンペーンはプレイヤー一同納得ずくの末に*8うやむやなエンディングを迎えたといいます。
原作物RPGを遊ぶ時は、プレイヤーとの間にコンセンサスをとりましょう、というありがたい教訓の一幕。

*1:10年前だ! まだ携帯珍しかった覚えがあるよ!

*2:アニメディア別冊 機動戦士ガンダムZZ part2』昭和62年3月1日刊 収録のもの

*3:適当に要約しておるので、詳しく知りたい人はちゃんと原文探すよろし

*4:当時はそんな言い方はしませんでしたが、ハンドアウトみたいなのは使っておりまして、一番上に並んでたから今で言うPC?なのは間違いありません。この枠選ぶとガンダムに乗れるよ、って立ち位置でしたんで、以後PC番号で話をします

*5:PLは三輪さん。途中で強化人間になったり黒トミノ小説みたいなおっそろしい過去があったりサイコガンダムに乗ろうとしたりとこれはこれで強烈なキャラであった

*6:ちょっと聞くと感動的だが、中身は実にいい加減なセリフ

*7:GMIIIの対艦ミサイルがついてた

*8:プレイヤーは全員楽しんでましたよ!